果たして「日本の若者の読解力が低下している」という問題は本当なのであろうか?
OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の調査結果
「読解力低下の迷信」のそもそもの元凶は、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の調査結果にあると思われる。「ごく一面的な、たった一つのテスト結果」で「日本の若者全体の能力を決めつけた」ことには著しい違和感を覚えるが、産経新聞の記事をはじめ、有力メディアがセンセーショナルに取り上げる。
産経新聞の記事には以下のような一覧表がある。
[産経新聞サイトから引用]
この記事の中でも原因をすぐに読書に結びつけるのはさすがにマズイのではないか? それを盲目的に信じて疑わない読み手の問題もあるが、これこそ読解力の低下の象徴であろう。
ちょっと考えればわかるはずだが、「授業で本や論文を読まされる」学生と比べて、「日々の仕事に忙しい」ビジネスパーソンはほとんど本を読まない人が多いハズ。少子化が進んでいるのだから、書籍販売に大打撃を与えているのは「大人」が原因だ。
OECD生徒の学習到達度調査(PISA)とは
さて、PISAとはいったい何か? 国立教育政策研究所(NIER)のサイトにわかりやすく説明されている。
OECDが進めているPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査に、我が国も参加しており当研究所が調査の実施を担当しています。PISA調査では15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに本調査を実施しています。
大事なポイントは義務教育修了段階の15歳児のみが対象となっていること。決して「若者」でも「新入社員」でもない。これからどんどん伸びていく育ち盛りの少年少女である。
国立教育政策研究所(NIER)のサイトに行けば、OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント (1.30MB)が読めます。
さらに詳しことはOECDサイトに行けば原文を読むことができます。
OECDのサイトにはこんなグラフがあります。
上記データを見ると、「日本の若者は・・・」と嘆くよりも、「中国や北欧、カナダが突出している」ことに対して素直に驚き、「アメリカやイギリスとは大差ない」ことを再確認することが大事なのではなかろうか? そして、「なぜ、積極性や自律性、論理的思考力においてアメリカとの差が広がっているように思えるのか?」を考えることが健全だ、私は思う。
加えて、産経新聞の記事にはアメリカやイギリスの順位データが消されていることに疑問を感じる。意図的に省略したのであろうか?
PISAを実施している目的は?
では、OECDはなんのためにPISAを実施しているのであろうか? 日本語のサイトでは省略されているが、wikipediaの説明がわかりやすい。[Programme for International Student Assessment]
The Programme for International Student Assessment (PISA) is a worldwide study by the Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) in member and non-member nations intended to evaluate educational systems by measuring 15-year-old school pupils’ scholastic performance on mathematics, science, and reading. It was first performed in 2000 and then repeated every three years. Its aim is to provide comparable data with a view to enabling countries to improve their education policies and outcomes. It measures problem solving and cognition.
15歳の学習児童の能力を測ることによって、その国の教育システムあり方を評価することが本来の目的である。日本のメディアでは、この本質的なポイントに触れた記事があったであろうか? デフォルメして述べるとすれば、「若者」は育成側の未熟さの責任を押し付けられた「被害者」である。「若者」のことばかりクローズアップされることは心が痛い。
日本の若者の読解力や文章力の低下の原因はどこにあるのか?
仕事柄、様々なビジネスパーソンとお会いする。新人・若手研修、中堅社員研修、初級マネジャー研修、ベテランマネジメント研修など様々な年齢層の方がいらっしゃる。また、営業職、技術職、IT企業、製造業、製薬業など、職種や業種も様々。
ただ、すベての方々に共通して感じることは、程度の差こそあれ、「課題解決力が伸び悩んでいる」こと。俯瞰的に眺めたり、分析的に思考したり、考えていることを論理的に記述したり、感じていること(情緒)を言語化したり、といった力が十分に発揮できていない。
研修を通して、学び・気づき・トライしていくと、職場でも使えるだけの力と自信が磨かれてくる。たかだか数日のトレーニングできっかけがつかめる。研修でやっていることは、受講者本人の中で潜在的な能力として眠っているものを目覚めさせること。つまり能力の問題ではなく、単にトレーニングが不足していることが要因だと私は思う。
また、若手だけの問題ではなくすべての年齢層においてこの問題が蔓延しているように感じる。「最近の若手は・・・」と口にするマネジャー本人が、自身の現状に気づいていない、あるいは、ごまかしているように思える。つまり、適切なトレーニングができるマネジャーや上司が減っていることが、若手の力を引き出せていないことの真の要因ではなかろうか。
こうした課題解決力は、読解力や文章力と同じタイプのリテラシーの一種。コツを学び、トレーニングすれば、必ず花が開く。ふつうに生きて、ふつうにビジネスを遂行するレベルであれば、難しいことではない。
もちろん、読書をすればレベルアップするものでもない。
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